• 椿屋四重奏

    「72」
  • 小春日和

    小春日和

    零しまいと空見上げて 失くしまいと握りしめて夜風に抱かれながら 物憂げを仕方なく連れて帰るまだ期待は鳴りやまない また次第に熱を帯びて胸に収まりきれずにある時 弾け飛んだ君の目の前で移りゆく季節に 身を任せながら笑い泣く君が 僕には欠かせないのさ長い髪を風になびかせ佇む 落ちかけた日差しに溶けた君が儚いんだ届かないと嘆...
  • 終列車

    終列車

    誰も寄せつけない眼差しは あきらめが体に馴染んだから拭えない日々にさいなまれて やがて塗りつぶせる程にまどろみを吸って吐いてやり過ごす 訪れる空白の繰り返し報われない無我夢中の最中 自ら明日を手放した真上から見下す お前の悲しみに 塞がれてしまう身動きも出来ずに 胸を撃ち抜かれて 痛みすら奪われただ忘れたいだけ それだ...
  • 成れの果て

    成れの果て

    未だ消え残り お前の後ろ髪を引くような真似を真白き頃の 淡く大袈裟な追憶が許した言葉の端に わざと不実を促すその心は知らず知らずに 崩れてしまう己を恐れた執拗に繰り返す正夢度重なる過ちの 成れの果てとめどない雨に 成されるがまま許された思い出が首に絡まり 引き離せない泥にまみれた仕合わせどうせお前の退かぬ微熱が まとわ...
  • ぬけがら

    ぬけがら

    真昼の光に 忘れた気がしたやがて沈みながら いつもの朝焼け誰もが目覚めて 歩き始めたが俺一人昨日に 引き返していた降り出した雨が 小馬鹿にするんだ今も未だ 目の色が戻らない明らかに足りない 俺の中にお前のすべてが 絡まって解けないあれから心は 隙間だらけ沢山の意味が 抜け落ちた そのせいで...
  • 春雨よ

    春雨よ

    僅かな塵さえ見つからぬ 惑い無き目で俺を覗く次から次へときりも無く お前の心を欲すばかりさほど日毎に からかわれずに 風も清しく手を引いた参ろうか 肩を寄せ 交わそうか 言の葉を参ろうか 傘さして 入らんと 濡れちまう流る季節の いと憎し結んで 直して ほころんだやがて春雨は降り出した 夕空はいつしか泣き出した長く鮮や...
  • 道づれ

    道づれ

    夙に囃されて生き流るまま 袖に忍ばすは空言ばかり自惚れは短夜に舞い落ちて 其方の手招きに明日を委ねるけたたましく吠えかかる現風の如きに怯えながらも胸空かす過去を剥ぎ取り 次々捨つる静々降りて 行き着く先は余す事なく 意を塗りつけるなじかは誰も 解かれぬ運命汲み取る虚の中の真 不得手と見紛えた罪を重ね重ねて差し出すも 赤...
  • 風の何処へ

    風の何処へ

    例えようのない 胸の高ぶりを押し殺しながら 朝を待っているひとつ流れ落ちた 無垢な望みと成るべくして 成ったような全て長い長い季節を 隔てたけれど今想い返すのは 昨日の言葉風の騒がしい日に さらわれぬ様にたった独りで 胸に抱えて迎えを待つのか手に負えない心が 袖を引いて 頻りに呼んでいる透けてしまった声が 優しく笑って...
  • かたはらに

    かたはらに

    いつ何時も 其方の熱を傍らに無下に恋し 面影に暮れたいつ何時も 其方の声を傍らに過ぎる戯れ 溢れんばかり散々絡んだ心持ち 恥入るばかりの常日頃其に在る日差しの幼気に 其方を見たのは気の所為か径にふたりの 影伸びたいつ何時も 其方の熱を傍らに無下に恋し 面影を連れていつ何時も 其方の声を傍らに過ぎる戯れ 溢れんばかり拙ひ...
  • 群青

    群青

    只ならぬ気配を 察する道すがら待ち伏せる得体は 因果の影名残 目もくれず走り出す滑車に 決別を乗せた 藪騒ぐ中立ち込める群青に 細工の余地は無ひ平伏したまやかし 高笑ひ冴へ渡る時既に一抹の残り火を ひたすらに踏み消した最果てを見据へた 甚だ黒まなこ さゞ波の音或る散華の心情に 絶へず胸を焦がし睨み合ふ日毎にて 無情刻む...
  • 舌足らず

    舌足らず

    円かに削がれて紐解けた 鎮めた望みは数知れずほつれた御髪に気は漫ろ そこかしこ転げた悪ふざけ頷ひて閉づる目に 切先を向けた面を晒す裏側に 謀は無きに等しく只 その胸で雨宿り 物に成らぬ振舞よ軽きに見受けし手振りには 燻る因果を宿す声日和に委ねて仕舞ふ足 思ひ出が体に通ひ出す敷き詰めたひもすがら 蓋を為て燃したいつぞやの...
  • 導火線

    導火線

    白い背中を 夕日が縁取る黒い瞳に 火種を隠して近付く程に熱を帯びてゆく重なる影と 罪を見たあの日の傷跡が 君を引き戻した何食わぬ顔で絡まり うずくまり 答も聞かずに許したその隙に 燃えて拡がる互いに春を 待ち切れずほつれた髪に 途切れた声が緩く結んだ 唇が絡まり うずくまり 答も聞かずに許したその隙に 燃えて拡がる耳を...
  • 波紋

    波紋

    また ひとつ 其方が口に出した余が ひとつ 其方に受け返した汲んだ水が 流砂に姿を変へるたなごころの隙間より 滑り落つその様を朧げに 想ひ返す 夕月よ燃ゆる幻に 現は死せり帰路無き旅路へとされど穏やかに 横たふそれは惑ひを知らざる様子また ひとつ 天道が海に落ちたまた ひとつ 虚実が共に落ちた己んだ鼓動 生まれし波紋 ...